映画『マトリックス』のメタファー(暗喩) 残像としての世界


昔、
『マトリックス』という、
三部作の映画がありました。
ユニークな世界観や映像表現で、
ヒット作となった映画です。

その世界観についても、
問題をはらみ、
多様な解釈や議論がなされましたが、
ここでは、
少し違う切り口で、
考えてみたいと思います。

ところで、
この映画が示している
感覚表現(表象)の世界は、
変性意識状態(ASC)や、
シャーマニズム
また、サイケデリック的世界を、
考える者にとっては、
大変、興味深いメタファー(暗喩)と、
なっているのです。

実は、
映画で描かれている、
マトリックスの創りだす世界と、
私たちの生きている、
この現実世界とは、
さほど、事情が違っているわけでは、
ないからです。

さて、拙著の中で、
この日常的現実とは何かを、
考えてみたところで、
「合意的現実」という考え方について、
取り上げてみました。
内容紹介『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法』

私たちの、この現実世界も、
皆の合意した、
集合的な信念体系として、
存在しているという考え方です。

ところで、このような
合意的現実のあり方は、
単に、認知の拘束として、
私たちの世界を、
映し出しているだけではありません。

実際には、
「知覚的な拘束力」をともなって、
「この世界」を、
映し出してもいるのです。
そのため、
私たちはなかなか、
この合意的現実を、
相対化することが、
できないのです

ところで、
体験的心理療法のところで、
「心身一元論的」な、
人間のあり様を見ました。
硬化した心と
硬化した身体とは、
相互的なフィードバックを繰り返して、
生活史の中で、
硬化した抑圧的な世界を
創りだしてしまうのです。

その多くの由来は、
現代社会(やその出先機関である親、教師)の、
「信念体系」です。

そして、
私たちは、物心がつく前から、
そのシステムによって、
感情や肉体や知覚を狭められ、
拘束された状態で、
社会に出されて(再生産されて)、
いくのです。

実際のところ、社会の、
私たちの知覚・感覚への洗脳は、
映画における、
マトリックス(母体)による支配と、
実は、大差がないものなのです。

ところで、
映画でもそうですが、
この拘束された、
知覚世界の外に出るには、
強度の変性意識状態(ASC)を誘発する、
「赤いピル」が、必要(有効)です。

(アップルの、
スティーブ・ジョブズは、
自伝の中で、
自身のLSD体験を、
人生の最重要事に、
挙げています。
一方、実際問題、比喩的にいえば、
多くの人は、日々の中で、
赤いピルを得るチャンスに出遭っても、
青いピルを選んで、
眠りつづける人生を選んでいるのです)

ところで、
赤いピルのような物質によらずとも、
強度の変性意識状態(ASC)を誘発し、
この拘束的な知覚世界を
超脱していく手法は、
多様にあります。

体験的心理療法なども、
そのひとつです。
(スタニスラフ・グロフ博士が、
LSDセラピーから、
ブリージング・セラピーに移行したように)

実際、
ゲシュタルト療法をはじめ、
体験的心理療法の多くの手法が、
強烈な変性意識(ASC)を創りだし、
内側から心身を解放し、
私たちの硬化した信念体系や、
知覚のコードを
熔解する効果を持っています。

ゲシュタルト療法などの、
体験的心理療法的な探求を、
実直かつ真摯に進めていくと、
心身が深いレベルで解放され、
エネルギーが流動化されていきます。

身体の感受性が、
深いレベルで、
変わっていくことになります。
知覚力が、
鋭敏になっていくのです。

変性意識(ASC)への移行や、
日々の気づきの力も、
ずっと流動性を高めたものに、
なっていくのです。

そして、
私たちは、
旧来の硬化した世界を、
まったく別様に、
見ていることに気づくこととなるのです。

硬化した見慣れた世界は、
単なる世間の信念体系、
後付け的に、既存の意味を再構成した、
「残像としての世界」にすぎず、
より、リアルな世界とは、
刻々に、
まばゆい息吹が流動する、
エネルギーの世界であると、
感覚できるようになるのです。

それは、あたかも、
映画の中で、
主人公ネオが、
腕を上げていくのにつれて、
マトリックスのつくり出す幻想世界よりも、
「より速く」
知覚し、動けるように、
なっていくのと同じことなのです。

これらの体験についての、
映像表現は、
流動化し、透視力化していく、
知覚力の変容を、
うまく表現しています。

シリーズ一作目の終盤で、
あたりの風景やエージェントを
「流動するデータ」として
透視し、
エージェントに、
立ち向かいはじめる、
ネオの姿が、
描かれています。

映画のストーリーとしては、
自分の力の可能性を、
感じはじめるネオという、
覚醒的な場面でもあるのですが、
実際には、
たとえ、
特別な救世主でなくとも、
私たちの誰もが、
この洗脳的な表象世界を透視し、
それよりも、
「速く動き」
その支配を脱する力を、
持っているのです。

私たちに必要なのは、
単に信じることではなく、
心身と意識を実際に解放していくこと、
そして、
その中で、
新たな知覚力を、
訓練・開発していくことなのです。

そして、
それは実際、
できることなのです。

 

 

※変性意識状態(ASC)への
より総合的な方法論については、拙著↓
『砂絵 現代的エクスタシィの技法』
をご覧下さい。

 

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